シングルセル調製(Single-cell preparation)について
シングルセル解析の品質は、ライブラリ調製やシーケンス以前に、シングルセル懸濁液の調製段階でほぼ決まると言っても過言ではありません。特に、ダブレットや死細胞を多く含むサンプルは、有効リード数の低下、バックグラウンドRNAの増加、および不要なシーケンスコストの発生につながります。本ページでは、研究用途におけるシングルセル調製手法について、それぞれの適用条件・利点・注意点を整理します。
培養細胞とは異なり、組織由来サンプルでは、物理的ホモジナイズ処理やコラーゲン分解酵素処理などにより細胞を単細胞レベルまで解離した後、目的に応じた方法で調製を行う必要があります。なお、酵素処理の過剰は細胞死や細胞表面抗原の損傷を引き起こすため、条件最適化が重要です。
メッシュ/フィルター方式
メッシュやフィルターを用いて物理的に組織を解離し、細胞サイズによる選別や凝集塊の除去を行う方法です。
組織由来サンプルの初期処理として簡便かつ再現性が高い一方で、ダブレット除去や生細胞選別には限界があり、単独で最終的なシングルセル調製を行う際には注意が必要です。
ピペット/マイクロマニピュレーター方式
顕微鏡下でピペットやマイクロマニピュレーターを操作し、1細胞ずつ目的細胞を回収する方法です。
希少細胞やサンプル数が極端に限られる場合に有効ですが、スループットは低く、オペレーターの熟練度が結果に大きく影響します。直接ウェルプレートにシングルセルとして分注することで、他の単離操作を行うことなくシングルセルアッセイを実施することも可能です。
ソーター方式(FACS)
セルソーター(FACS)を使用することで、高スループットかつ定量的に目的細胞のみを選別した細胞懸濁液を調製できます。
7-AAD(0.25 µg/mL)、PI(1 µg/mL)、DAPI(100 ng/mL)などを用いた死細胞除去は、single-cell RNA-seqにおける背景RNA低減の観点から特に重要です。死細胞を事前に除去することで、無駄なシーケンスコストを抑制できます。
分注機能を備えたソーターでは、ダブレット率を低減した状態でシングルセルを直接ウェルプレートに分注可能であり、下流解析に適したサンプル調製が行えます。
レーザー方式(LCM 等)
レーザー照射によって、組織や培養集団から必要な細胞のみを回収する方法です。代表例としてレーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)が挙げられます。
スループットは制限されますが、空間情報を保持したまま特定細胞集団を回収できる点が特長であり、空間トランスクリプトミクスとの併用や検証用途で有効です。近年では、AIによる画像認識と組み合わせることで、特定細胞の自動識別や不要細胞の選択的除去を高速に行う技術も登場しています。
細胞懸濁液のカウントおよび最終調製
最終的に必要な細胞濃度や生存率は、使用するプラットフォーム(例:10x Genomics)によって異なります。
シングルセル単離前に、細胞カウント、生存率評価、および必要に応じた再調製工程を行うことが、再現性の高い解析結果につながります。
10x Genomicsが公開している以下のフローチャートは、シングルセル解析用サンプル調製の参考として有用です。